(平成21年度採用)
遺伝子改変胚の作製など
遺伝子改変胚の作製など
はじめに今回取材した筑波大学生命科学動物資源センターについて、簡単にご説明しましょう。
医学や生命科学の領域では生命機構の解明や先端的医療技術の開発のために、多くの遺伝子改変マウスや疾患モデル動物が開発・利用されています。このような遺伝子改変マウスの開発および供給拠点として学内外の多くの研究活動を支援しているのが筑波大学生命科学動物資源センターです。
精度の高い動物実験を行うためには、実験目的に適した高品質な実験動物と一定の飼育・実験環境が必要不可欠です。長谷川さんはこのような実験動物の飼育管理や施設・設備の維持管理を行う研究支援部門で活躍されています。日頃は実験動物の飼育管理や遺伝子改変マウスの作成などの仕事を担当されています。
(※上の写真は飼育室の写真、下の写真は実際に飼育されているマウスの写真です。)
環境維持のためさまざまな工夫がありました。
まずはじめに採用試験事務室一行が到着すると、長谷川さんの丁寧な説明のもと生命科学動物資源センターの施設を見学させていただくことができました。
施設の中には衛生面・安全面での施設環境維持のため、さまざまな工夫が施されていたのでいくつかご紹介したいと思います。
こちらの写真の左下に青い扉が見えますね。これはエレベーターの扉なのですが、実はこのエレベーターの向かい側(カメラマンの後ろ)に、もう一つ赤い扉のエレベーターがあるんです。なぜ離れた位置に2ヶ所エレベーターがあるかわかりますか?
この施設では、施設に入ってくる(きれいな状態の)人や物は赤いエレベーターを使用し、実験や作業をして出ていく(汚れた状態の)人や物は青いエレベーターを使用するというルールがあるそうです。きれいな物と汚れた物の動線が交差しないための工夫だそうで、これにより施設内の環境が維持されるそうです。
こちらは施設内の2つの建物(A棟・B棟)をつなぐ廊下の写真です。ここでも「建物を移動する際は必ず履物を履きかえる」という環境維持のためのルールがありました。また「A棟からB棟への移動はできるが、B棟に入った人はその日はA棟に入ってはいけない」というルールもあるそうです。
このほかにも、建物と外部とが接するドアを開けても外気が入らないよう、建物内を与圧する仕組みがあるなど、施設内環境維持に関する徹底ぶりに私たち採用試験事務室一行も驚かされました。
こちらは実験室前室の入口の写真です。入口扉の下のところに緑色の板が設置されていますね。これは万が一遺伝子改変マウスが逃走した場合でも部屋の外には出られないようにする、いわば“ねずみ返し”です。
遺伝子改変マウスというのは人の手で作り出した生き物で、自然界には存在しない生き物です。このような生き物がもし自然界に逃げ出してしまった場合、自然界に想像もつかないような影響を与えてしまう可能性も考えられますので、このような安全対策をとっているそうです。
こちらは実際に使用されている飼育機です。実際にはこの飼育機の中にケージと呼ばれる飼育箱がいくつも収められ、飼育箱の中でマウス等が飼育されています。1週間くらいで汚れたケージを新しいケージに交換するそうですが、そのような交換作業も長谷川さんが担当されているそうです。
飼育機の天井部分にはフィルター付きの空調機が付いており、飼育機の中は常にきれいな空気で満たされるようになっています。
また、長谷川さんが指さしている飼育機の内部に見えるシルバーのラインは自動給水装置とのことです。自動給水は24時間行われており、マウスは飲みたいときに水を飲むことができます。
飼育機の天井部分に付いているタイマーは給水配管内を洗浄する「フラッシング」という作業を行う装置で、このタイマーが1日2回作動することにより給水配管内のゴミを除去して、きれいな水を供給することができるようになっています。
冒頭の飼育室の写真をご覧いただければわかると思いますが、このような飼育機が飼育室の中に多い場合で6~7機設置されており、全体ではかなりの数になるとのことです。
このような設備のメンテナンスなども技術職員の仕事の一つです。
ひととおり施設内を見学させていただいた後、いよいよ遺伝子改変マウス作製の最前線「胚操作室」へ案内してもらいました。
「胚操作室」は遺伝子組み換え作業を行う部屋で、特に厳しく環境管理されています。
「胚操作室」となりの更衣室にて、滅菌処理された専用の作業服に頭から足の先まで身を包み、身に付けた手袋をアルコールで消毒してようやく入室できます。では、いざ「胚操作室」へ!
「胚操作室」の入口の扉には予定表がありました。
ホワイトボードに記載されている事項が、長谷川さんが所属するチームがこの日行う予定の業務内容とのこと。この日はキメラマウスの誕生予定日で、出産が予定通りにいかなかった場合は帝王切開を行うこともあるそうで、この日のホワイトボードには「キメラ」「帝切」の文字が見えます。
右上の方に見えるカラーの予定表は、月単位の予定表です。
動物を扱う仕事なのでなかなか予定通りに仕事が進まないこともあり、ある程度長期的な期間の予定をしっかり立てておくことが重要、とのことです。
こちらは「胚操作室」の中の様子です。顕微鏡やインジェクション(遺伝子組み換えを行う機器)などが所狭しと並べられています。
この部屋を長谷川さんのほか、非常勤職員2名、外部職員1名の合計4名で管理運営しているとのことです。
さっそく長谷川さんにインジェクションを使って普段行っている遺伝子組み換え作業の再現をしてもらいました。
インジェクションの顕微鏡の先には左右から2本のアームが出ており(写真中段)、片方のアームの先には極細の針が付いています。この針は長谷川さんが実際の業務で作製することもあるそうです。
実際の遺伝子組み換え作業は、片方のアームでマウスの胚(卵)を掴んで、もう片方のアームの針からDNAを注入するそうです。(写真下段)
このような遺伝子組み換え作業にあたっては、安定した一定レベルの作業が求められ、作業の正確さや速度が大切になるので、日々技術の向上に努めているとのことです。
仕事で使用する機器の操作や手技等は、非常に高いレベルの技術を持つ先輩職員から、現場で実地指導を受けつつOJTで身につける環境があるほか、学外の講習等を受講して身につけることも可能だそうです。